大人の読書感想文〜ペンギン・ハイウェイ〜

今年も夏が来た。燦々と照りつける太陽が眩しい。まさに夏の始まりのような日。そんな日に、僕はペンギンハイウェイを読んだ。

 

そしてその本を読みながら、「夏」についてと「子供と大人」について考えた。

 

ペンギンハイウェイの主人公アオヤマ少年は、真面目ゆえにどこか他の人とズレている研究者肌の小学4年生。まごうことなき子供だ。

 

対して、彼の物語を読んでいる僕は、まだ子供でいられた時代の香りを嗅いでいる20代中盤、もう年だけは立派な大人だ。

 

やっと体の成長に心が追いついてきたのか、今の僕は、それまでの子供目線だけでなく子供を見守る大人目線、そんな二つの目線が交わり融合する不思議な感覚を覚えている。



ペンギンハイウェイは、タイトルのとおりペンギンが出てくる。そしてそのペンギンは歯科医院のお姉さんの不思議な能力で誕生したものだと分かる。

 

なぜペンギンが誕生するんだろう。お姉さんって一体何者なの。次々に起こる謎、そして事件。一言で表すなら、不思議なSF要素満載、アオヤマ少年の一夏の冒険譚。

 

それがペンギンハイウェイである。

 

ペンギンは可愛い。お姉さんも可愛い。そしてなにより、お姉さんとアオヤマ少年のやりとりが可愛い。甘酸っぱさを煮詰めて、爽やかさをまぶしたみたいな描写を読みながら、少年の淡い恋心が眩しかった。

 

そしてそんな物語の季節は、夏じゃないといけないと思った。



思えば僕は、夏のエネルギーを正面から受け止めたことがない。子供の頃の僕は、どの集団にも一人はいるような、どこか冷めていて、少し捻くれた少年だったから。故に、暑く(熱く)燃えるような夏が素晴らしいなんていう感想を、中学生の頃の僕は少しも共感しないだろうし、2年前の一番学問に被れていた僕が見たら、浅いしょうもない意見だと鼻で馬鹿にしそうである。

 

だが、そんな捻くれたものの見方では結局何も成し遂げられはしないのではないか。大人たちは夏をそんなに意識しないで過ごしている。いくつもの夏が過ぎ去って、一つ一つのかけがえのなさはとうに失われてしまった。忘れているんだ僕たちは。夏が持つドキドキを。なんでもできる気がしていた無敵感を。取り戻そうじゃないか、あの頃の無垢な心を。

 

などと、わざとらしく大袈裟に夏と少年の心の素晴らしさを啓蒙してみせたが、別に今の僕だって、こんな使い古された啓発を真に受けているわけではない。

 

勘違いしてほしくないが、僕は殆どの人にとって、煌びやかな夏が妄想の産物でしかないことをちゃんと分かっている。

 

そもそも暑い夏より涼しい秋のほうが普通に好きだ。夏の象徴の海だって、もし張り切って出かけてもクロールで10メートルも泳げば何もすることがないことに気づいてしまう。夏に無理やりはしゃいでみても虚しいだけで、強引に夏を楽しもうとする人種には哀れみすら感じる。

 

何を隠そう、まだまだ僕は、人生そんなもんだよねと、斜に構えている方の人間だ。

 

僕がペンギンハイウェイから受けとったのは、充実した夏を送らなきゃなんていうダサい強迫観念ではない。

 

それはもっと気楽なもので、夏の爽やかさとでも呼べるもの。暑い日差しの中で受ける風の気持ちよさが、この爽やかさを一番表しているのかもしれない。なんて少し詩的すぎるだろうか。

 

次は「子供と大人」について。

 

アオヤマ少年はクラスの周りから少し変なやつとして扱われている。しかし、そのことを気にしている様子はない。彼はみんなが怖がるガキ大将にも平然と自分の意見を言える。

 

アオヤマ少年の行動の指針は、世間の常識ではなく、溢れ出る好奇心だ。

 

アオヤマ少年の好奇心を象徴する重要アイテムが、父親から買ってもらった一冊の研究ノート。そのノートを抱え、己の好奇心のままに無我夢中で謎に立ち向かうアオヤマ少年の姿勢は、なんて尊いものなんだろうか。そのノートで行った研究こそが、きっと彼がこれから進む道を示してくれるはずだ。僕にはそんな確信がある。

 

大人になって、過ぎ去った時を眺めると、子供でいられる時期は短い。

 

少年老いやすく学なり難し、だけど学ぶことは素晴らしきことかな。

 

僕は、雑多だけど決して蔑ろにできない日常に縛られることなく、自由に学問を探求できるアオヤマ少年のことが、素直に羨ましかった。

 

そして、もう今の僕はもう、そんな子どもたちを見守る大人になったんだと、今更ながら思った。

 

大人のあり方はいくらでもある。きっと正解なんてない。

 

あるのはこうありたいと願う姿だけ。

 

そして、ペンギンハイウェイの主人公、アオヤマ少年も、そんな大人になると思う。

 

己の純粋な好奇心を失うことなく、楽しんで学んでる姿を子供に見せれる大人に。

 

そうか。今の僕はそんな大人になりたいのか。

 

笑ってしまうが、ひねくれた僕は、ペンギンハイウェイを読んで、また、爽やかな夏の力を借りて、こんなあまりにも真っ直ぐな感想を抱いたのだった。